マインドフルネス(ヴィパッサナー瞑想)と認知行動療法のストレス低減効果と、両者の親和性ということについてご説明いたします。
INDEX
サマリー
- マインドフルネス(ヴィパッサナー瞑想)にはヒーリング効果、ストレス低減効果があります。
- マインドフルネス(ヴィパッサナー瞑想)と認知行動療法には親和性があります。
- 認知行動療法は、構造化されている(進め方が標準化されている)こと、クライアントとカウンセラーの協働により進めてゆくことから、比較的短期間で効果が期待できます。
1.ストレス低減カウンセリングの目標
(1)ストレスの低減、除去
(2)活力の増進、行動の促進
(3)目標・希望を実現するための行動の障害を取り除く
2.マインドフルネスのヒーリング効果、ストレス低減効果
マインドフルネスのヒーリング効果、ストレス低減効果について説明いたします。
ここでいう「マインドフルネス」「瞑想」は、ヴィパッサナー瞑想です。
カウンセリングで使用される緊張緩和のための問題解決技法に筋弛緩法、呼吸法があります。
座ってする(呼吸の)瞑想は、楽な姿勢を維持するため、姿勢と呼吸の維持に必要な筋肉以外の働きを取り去り、安定した姿勢で座り、自然で穏やかな複式呼吸を行います。
つまりマインドフルネスは、筋弛緩法と呼吸法の双方を、高度に統合して行っていることになります。
この瞑想を、一定時間続けると、副交感神経が優位になり、落ち着きを得ることが実感出来ます。
落ち着きを得ることで気分の改善が図れます。この段階でもヒーリング効果は得られますが、比較的軽度なものにとどまります。
姿勢と呼吸が安定するにつれて、落ち着きは深くなりますが、呼吸と姿勢を安定的に維持するためには、腹筋と腰回りの筋力が必要になってきます。
日頃運動をされていない方は、瞑想時間を延ばすにつれて腰痛に見舞われることがあります。
腰回りの筋肉が強化されると姿勢が良くなり、内蔵への負担が少なくなります。
内臓への負担が少なくなることで、体が楽になり、体調は良くなります。
座ってする(呼吸の)瞑想に継続的に取り組み、さらに集中力が高まり、心があちこちと動き回る(昨日のことや明日のこと、ここ以外のどこかのことが心に浮かぶ)ことがなくなり、今ここ起こっていること(呼吸による体の動き)に意識が集中できると、深い安らぎが得られ、その中にいることを心地よく感じるようになります。「楽」と言われる状態です。
楽の状態を経験すると、瞑想すること自体が楽しみになってきて瞑想への意欲が高まります。
この状態は「今ここに」いる状態です。人は、日常では「今ここに」にいないことも多くあります。
「今ここに」いないとは、今していることに集中できず、心が別のことに向かっているような状態です。
「今ここに」いることが実感できると、高まった集中力により、誰に気兼ねすることもなくただ堂々とここにいる、ことが実感できます。
また自分の中で抑圧された感情に接し、それを認識したとき(ラベリングにより認識します)には、強い解放感が起こります。
この段階に至ると強いヒーリング効果、ストレス低減効果が期待できます。
「今ここにいる」ということは、カウンセリングでも重要視されています。
マインドフルネスは、心理療法・セラピーとしても効果的なものといえます。
3.マインドフルネスで集中力が高まるとどうなるか
私の体験からご説明いたします。
少し前のことです。認知行動療法を学ぶ前のことです。
ヴィパッサナー瞑想では、感覚を「苦」「楽」「不苦不楽」とラベリングして認識します。
ふと気分が悪くなり(胸が圧迫され気持ち悪くなる感覚)、「苦」とラベリングして認識しました。
そしてその次に、気分の悪化に先立って、あることに触発されて、自分の将来についてネガティブな見通しを心の中で「つぶやいた」ことが心に浮かびました。
どうやらこの「つぶやき」が気分を悪化させたようだ、と感じ、その「つぶやき」を「そうと決まったわけではない」と心の中で言い直したところ、気分の悪化がなくなりました。
その時私が考えたことは「気分の悪化という苦をラベリングで認識した、気分の悪化が「つぶやき」によりもたらされた(原因であった)ので、「つぶやき」を言い換えた(原因をなくした)ら気分の悪化が改善された、ということはこれからもこうすれば気分の悪化は防げるということになる、これが四聖諦であろうか」でした。
ヴィパッサナー瞑想は、体の動きを観る身随観、感覚をみる受随観、心を観る心随観、法を観る法随観と進みます。
気分の悪化(胸が圧迫され気持ち悪くなる感覚)を、「苦」とラベリングして認識し、その原因を探り当てられる程度には、私の集中力と観察力(感受性)は高まっていた、ということになります。
結果として、私は「感覚を観る受随観」により「苦」を観、「心を観る随観」により苦の原因を観ることを、意識せずにできる段階にいた、ということになります。
四聖諦は、「苦を知ること」「苦の生起を知ること」「苦の滅尽を知ること」「苦の滅尽に至る道をしること」とされています。四聖諦は、ヴィパッサナー瞑想では法随観で修めます。
もし私が、四聖諦を観たのであれば、その時は法随観の段階にいた、または入りかけていていた、と言えるのかもしれません。
各随観は「学んで知識として身に付ける」ものとして説明されず、「このようなものであるから、瞑想を通じて自らがやってみて体現しなさい」という観点から説明されています。
この点からもヴィパッサナー瞑想に、心理療法・セラピーとの親和性を感じます。
4.ストレスは、瞑想に取り組む良い機会
ストレス・悩み苦しみから逃れたい、という願いはヴィパッサナー瞑想を始めるには良いきっかけです。
人の行動の原動力は、欲であると思います。欲を否定するつもりはありませんが、瞑想を始める動機としては少し注意が必要です。
むしろ、ストレス・悩み苦しみから逃れたい、という願いから始める方が良いように思います。
欲は、「自分に無いものを外に求め、それを獲得すれば快の感覚を得られるだろう」という思考です。
「自分に無いものを外に求め、それを獲得すれば快の感覚を得られるだろう」という欲求で瞑想を始めると、本来瞑想で見えるようになるものを、見えなくしてしまう可能性があります。
一方、ストレス・悩み苦しみから逃れたい、という願いは、ストレス・悩み苦しみをなくしたい、ストレス・悩み苦しみのない自分に自分になりたい、ということを願うことです。
「なくしたい」「ない自分になりたい」は、自分の外から何かを自分の側に持ってくることではなく、自分の在り方を変えてゆくことです。この動機は瞑想との相性が良いように思います。
『2.マインドフルネスのストレス低減効果、ヒーリング効果』の中で『心があちこちと動き回る(昨日のことや明日のこと、ここ以外のどこかのことが心に浮かぶ)ことがなくなり、今ここ起こっていること(呼吸による体の動き)に意識が集中できると、深い安らぎが得られ、その中にいることを心地よく感じるようになります。』とお話しました。
『心があちこちと動き回る(昨日のことや明日のこと、ここ以外のどこかのことが心に浮かぶ)ことがなくなる』方法は、『昨日のことや明日のこと、ここ以外のどこかのことが心に浮かぶ』ようになっていらた、「妄想」「放す」とラベリングして、『昨日のことや明日のこと、ここ以外のどこかのこと』を自分の意識から「放す」、つまり「なくす」ことにより、今ここに生じている呼吸の動きへ意識を戻します。
ヴィパッサナー瞑想は、「放す」訓練により、意識に生じたものは消えてゆくに任せる、追いかけないという訓練をしますので、「なくしたい」「ない自分になりたい」という欲求と、瞑想の方法論は相性が良いように思います。
釈迦は、解脱によってさまざまな能力を身に付けたと言われていますが、それらの能力を身に付けようとおもって修行に入ったのではないようです。
悩み苦しみから逃れるために修行に入り、悩み苦しみをなくして悟り、その結果としてさまざまな能力(智慧)を得たとされています。
煩悩を捨てなさい、とよく言われます。
それでは何のために煩悩を捨てるのでしょうか?
悩み苦しみがあってその原因に「ある特定の考え方」がある、「ある特定の考え方」を捨ててみたら悩み苦しみがなくなった、「ある特定の考え方」=煩悩=原因がなくなれば縁によって生じる悩み苦しみがなくなる、との理解に至って初めて、煩悩を捨てることに必要性に気づくのではないかと思います。
煩悩が悩み苦しみの原因であることを認識しない人には、煩悩を捨てることはできないようように思います。
5.認知行動療法の認知モデル
認知行動療法は、アメリカのアーロン・T・ベックが創始しました。
認知行動療法の考え方の基礎となるベックの「認知モデル」を簡単にご案内いたします。
人は、状況が自分を苦しめると考えがちですが、ベックの認知モデルでは、状況に接して自分の頭に浮かぶ自動思考が、状況にうまく対応することを妨げる非現実的、非機能的なもの(たとえばさほど決定的ではないミスを犯したときに「私は、いつも大事なところで失敗するダメなやつだ」という自動思考が浮かんだ)であった場合には、気分の低下や行動の停滞、身体反応を引きおこすと考えています。
非機能的な自動思考は、気分を低下させ、さらに行動も停滞させてしまい、状況への現実的な対応も妨げてしまいます。このことがさらに気分の低下や身体反応をもたらします。
認知行動療法は、非現実的、非機能的な自動思考を特定し、内容を検討し、現実的、機能的なものとなるよう修正することにより、気分の低下や行動の停滞、身体反応などを改善することを目指します。
自動思考の発生は、中核信念・媒介信念、認知構造としてのスキーマが関係しています。
中核信念は、通常は意識されることのない、幼少期やそれに続く時期に形成された(形成時には正しかったかもしれない)信念です。
中核信念・媒介信念は、通常意識していない「思い込み」、自動思考をあやつる「思い込み」と考えてもらえばよいでしょう。
多くの人はおおむね現実的な中核信念を持っており、現実的な中核信念・媒介信念に基づく認知構造(スキーマ)が活性化している場合には、非現実的、非機能的な自動思考は発生しません。
しかし、何かのきっかけ(強いストレスのかかる状況など)で、潜在的に持っている非現実的、非機能的な中核信念・媒介信念に基づく認知構造(スキーマ)が活性化すると、非現実的、非機能的な自動思考やイメージが支配的となり、気分の低下や行動の停滞、身体反応などに苦しむことになります。
頻繁ではないもの、周期的に気分が落ち込む、ということを経験される方は、潜在的に持っている非現実的、非機能的な中核信念・媒介信念に基づく認知構造(スキーマ)が活性化することによって、周期的に気分の落ち込みが生じているのかもしれません。
認知行動療法は、非機能的な自動思考の発見、修正にとどまらず、非現実的、非機能的な中核信念・媒介信念を見つけ、その妥当性を検討し、現実的で機能的(現実的で自分に役立つ)な信念となるよう修正を試みます。
また、認知行動療法は、非機能的な中核信念・媒介信念、自動思考の修正だけでなく、ポジティブで現実的な自動思考、それを生み出す中核信念・媒介信念を育てることにも力を注ぎます。
自分の心にある中核信念・媒介信念・自動思考を同定し修正するのと同様のことを、マインドフルネス(ヴィパッサナー瞑想)では、心随観によって行います。
また、自動思考の同定と修正、自動思考の修正による気分の改善と同等の効果は、ヴィパッサナー瞑想によっても、受随観、心随観にまで進めばできると考えています。
6.認知行動療法のメリット
認知行動療法は、プログラムが構造化されています。
構造化されているとは、全体のプログラムの中でどのようなことを行い、各セッション(各カウンセリング)でどのようなことを行うかが、おおむね明確になっていることを言います。
また、認知行動療法は、認知モデルについてのクライエントへの「心理教育」を重視しています。
心理教育というと、少し上から目線に感じるかもしれませんが、心理教育の目的は、
- クライエントに、気分の低下や行動の停滞、身体反応を引き起こすことの原因が、非現実的、非機能的な自動思考や中核信念によるもの(認知モデル)であること説明し、理解してもらい、
- 認知モデルの考えに基づき、協働で行動計画を立案し、クライアントが行動してゆくことで、
- 認知モデルの妥当性を実証することを通じて、クライアント自身が課題解決能力を高めてゆく
ことを実現することにあります。
認知行動療法は、クライエントとセラピスト(カウンセラー)との協働作業、協働実証という性格を持っています。
認知行動療法は、構造化されていること、カウンセリングを通じたクライエントとカウンセラーとの協働作業により、比較的短時間で、効果的に進めることができるところに大きなメリットがあります。
7.ベックの認知モデルとマインドフルネスの親和性
マインドフルネス(ヴィパッサナー瞑想)による「苦の消滅」経験のプロセスは、認知行動療法の認知モデルでも説明できます。先に紹介した私の体験を引用して説明いたします。
(引用)
『その時私が考えたことは「気分の悪化という苦をラベリングで認識した、気分の悪化が「つぶやき」によりもたらされた(原因であった)ので、「つぶやき」を言い換えた(原因をなくした)ら気分の悪化が改善された、ということはこれからもこうすれば気分の悪化は防げるということになる、これが四聖諦であろうか」」でした。』
ベックの認知モデルに基づいて、上記の経験のプロセスを言い換るとこうなります。
『気分の悪化は、自動思考(つぶやき)によってもたらされた。自動思考(つぶやき)は非現実的、非機能的な自動思考(つぶやき)であったので、自動思考(つぶやき)を修正(言い換えた)し現実的、機能的なものに言い換えたことによって、気分の悪化は解消した。』
マインドフルネス(ヴィパッサナー瞑想)では、身随観(呼吸に注意を向ける)で、頭に浮かんだ「いまここで起こっていないこと」を「妄想」とラベリングして、「追いかける」ことを止め、呼吸に注意を向け直します。
繰り返し繰り返し頭に浮かぶ「今ここで起こっていないこと」を「妄想」とラベリングすることで、自分の頭に浮かぶことはの大半は「事実を認知したものではなく、頭の中に浮かんできただけのもの」ということを知ります。
ベックの認知モデルにおける非現実的、非機能的な自動思考や中核信念は「適切ではない思考≒正しい見方ではない」という意味を含んでいます。
「適切な思考ではない≒正しい見方ではない」は「事実を認知したものではなく、頭の中に浮かんできただけのもの」と言い換えても意味は通じます。両者は重なりあう部分があります。
マインドフルネス(ヴィパッサナー瞑想)とベックの認知モデルは、それぞれが別々の方法によって、人間の苦しみ発生と認知にアプローチしている、と考えると両者の親和性に納得していただけるのではないかと思います。
8.「方向性が異なる」という面もあります
べック認知行動療法研究所所長のジュディス・ベックは、その著書「認知工行動療法実践ガイド:基礎から応用まで第3版」で、一章を割いて、マインドフルネスの研究が盛んであることをのべ、認知行動療法へのマインドフルネスの統合について記載しています。
また、ジュディスは、さらにセラピスト(カウンセラー)がマインドフルネスに取り組むことを推奨しています。その恩恵として、第一に「ストレスが減って、幸福感が高まる」ことをあげています。
ただしジュディスは、マインドフルネス(ヴィパッサナー瞑想)の「事実を認知したものではなく、頭の中に浮かんできただけのもの」を観て、その適用範囲を検証、拡張してゆくことを通じて、自己の認知を再構成するという、マインドフルネス(ヴィパッサナー瞑想)本質的な働き(その根底には釈迦の説いた初期仏教の認識論があります)までは、認知行動療法に統合してはいません。
「認知行動療法実践ガイド:基礎から応用まで第3版」の翻訳者藤澤大介先生は、同書で『Judithは、認知行動療法を「認知的概念化の下に行うセラピー」と定義しました。すなわち、認知概念化に基づいていれば、そこで用いられる様々な技法はすべて認知行動療法の範疇に含まれることになります。』と述べています。
一方「ブッダの瞑想法 ヴィパッサナー瞑想の理論と実践」の著者である地橋秀雄先生は、同書の中でヴィパッサナー瞑想の最重要ポイントの1つに「法と概念を明確に識別すること」をあげています。
「事実を認知したものではなく、頭の中に浮かんできただけのもの」を観て、「事実を認知したものではなく、頭の中に浮かんできただけのもの」の適用範囲を拡張してゆくと、最後の残るのは「法」つまり実在するもの、真理になります。
そして到達点は、完全な苦からの解放つまり「解脱」となり、認知行動療法の目標とは、異なるところに行ってしまいます。とはいえヴィパッサナー瞑想を行えばすべての人が、解脱に到達できるわけではありません。
認知行動療法は、日常生活を支障なく、さらには自己の希望や価値観に基づいた生活を送れることを目指す心理療法ですので、「浮世を超越した」解脱を到達点とするヴィパッサナー瞑想とは、当然に目指すものが異なります。
認知行動療法の枠組みの中では、認知行動療法の概念化に基づいて「マインドフルネス」を「今ここ」に意識を集中する技法として活用するのが、「有益な方法」と言えるでしょう。
9.カウンセリングルーム
他者の存在を気にすることなく、安心してカウンセリングを受けていただけるよう、東馬込に専用カウンセリングルームを設置しています。
もちろんご訪問に支障がなければ訪問でのカウンセリングも承ります。
また、オンラインミーティングも可能ですが、対面でのカウンセリングが理想的です。
また、情報保護の観点からも専用カウンセリングルームが理想的と考えます。
あなたの悩み苦しみがなくなりますように
あなたが幸せでありますように